傾きが負

〜known secrets and unknown common senses〜
第3話

 コンサートの当日、美夏はいつも通り7時に起きるつもりだったが、6時に目が覚めた。美夏は久しぶりに新聞を取りに玄関を出た。
 空は青く、寝不足のせいか陽射しが眩しかった。そよ風が吹き、澄みきった緑の香りがした。いつもはそんなことを気にしなかった。小鳥がさえずっているのをみていると、なんだかやさしい気持ちになれた気がした。
 朝食を取り、眠い目をこすりながら家を出た美夏は、里子とメールで連絡をとりながら駅へと歩いていった。そんな美夏には路地から出てこようとする車が目に入らなかった。
バンッ
美夏ははね飛ばされ、路上に叩きつけられた。車から飛び出してきたドライバーは若い男だった。一見すると好青年のように見えた。
「大丈夫ですか、大丈夫ですか、大丈夫ですか……」
 男は倒れている美夏に向かって、この言葉を連呼しつづけた。
 美夏は足が痛かったが、コンサートに遅れたくない気持ちもあったので、
「大丈夫です。」
 と言った。それを聞いた男は美夏を起こそうともせず、車に乗ってその場を去ろうとした。
 しかし、それを見ていた中年の男が若い男を引きとめた。
「大丈夫なわけねぇだろ。こっちへ来い。」
 少し訛りのある中年の男は美夏のところまで来て、美夏の足を触った。
「痛い!」
 美夏の足に激痛が走った。
「こりゃ、折れてるな。動いちゃだめだ。」
 中年の男は若い男に救急車と警察を呼ばせた。
救急車に乗せられる前、落ちていた自分の携帯電話を拾ってもらい、それを強く握り締めた。美夏は救急車の中から、痛さをこらえて里子にメールを打った。
〜ごめん、遅れるから先に行ってて。〜
彼女が心配して大切なコンサートに行くのを止めてしまうことを恐れ、本当のことは言えなかった。
〜どうしたの?〜
と返事がきたが、美夏は痛さの余り意識を失っていた。
第4話
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