傾きが負

〜known secrets and unknown common senses〜
第18話

 ただ何も考えずに、寝転んでいた美夏は、徐々にまぶたが重くなってくるのを感じた。そして、ゆらゆらとした浅い夢の中に引き込まれていった。
 美夏は薄暗い洞窟の中に立っていた。それは一直線の洞窟で、一方は遠くに明かりの差す出口がかすかに見えていた。しかし、もう一方は真っ暗で何も見えなかった。しばらくすると、暗闇から吹き寄せてきた冷たい風が美夏の頬をなでた。その瞬間、美夏は自分の体の震えを感じ、暗闇の方に目をやると、突然、闇が烈風と共に美夏の方に押し寄せてきた。闇は呆然と立ち尽くす美夏を通り過ぎ、明かりの差す出口へと這わんとしていた。それを見ていた美夏を恐怖が襲った。美夏は闇に包まれる恐怖から逃れるため、ひたすら出口へと走り出した。
 しかし、闇は思ったより速く、とても追いつけそうになかった。必死に走った美夏だったが、焦るあまり足がもつれて転んでしまった。一瞬、動きを失った美夏だったが。冷え切った岩肌に手をつきながら、こんなことでは決してあきらめてはいけないと自分に言い聞かせた。そして、出口の方に目をやると、10m位先に直立した人影が見えた。
 はっと目を覚ました美夏は、汗で背中を濡らしていた。体を起こして、しばらく思考を巡らせた美夏は、一つうなずいて深い眠りへと入っていった。
 次の朝、美夏は後藤の家を訪れた。
 美夏はテーブルの前に座るなり、こう言った。
「どうしてもあなたの過去が知りたいんです。教えてください。教えてくれなかったら、私、死にますよ。」
「死ぬなんて軽々しく言うな。」
 後藤はものすごい剣幕で怒鳴った。その後、後藤は数秒間、目を閉じ、再びまぶたをあげるとゆっくりと語り始めた。
「子供の頃の俺は弱かった。他人に逆らうことはせず、言われたことにただ従うだけだった。自己主張をせずに、言い争いのみならず、話し合いですら避けてきた。大人から見ればいわゆるいい子で、同年代から見れば利用しやすい子供だったのだろう。しかし、悪いことをするのには抵抗があった。他人の悪事にも嫌悪感を抱いていた。仲間から嫌なことをするよう要求された時ははっきりと断ることができず、問題が去るまで、日々苦痛を感じていた。そういったとき、俺は自分の信条を曲げずに嫌なことは嫌と言える強い人間になってやると心に誓った。
 そして、その後、数年で徐々にそんな自分に近づくことができた。自分が正しいと思うことを貫いていけるようになってきていた。少なくとも、自分の信条をひどくえぐるような要求には真っ向から否定できるようになっていた。また、そうした自分に自信を持ち、自分の意見を主張することもできるようになってきていた。」
 後藤は大きなため息を一つついた。
第19話
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