傾きが負

〜known secrets and unknown common senses〜
第13話

 桜の咲く頃、美夏は念願の大学に入学した。美夏は奨学金をもらうことができたのだが、家計を少しでも楽にするため、休日をアルバイトに費やすことに決めた。また、美夏はいくつかのサークルを見学したが、目標に向かって頑張っているのではなく、集まってだらだら過ごしているだけのような印象を受けた。その中に入れば楽しいかもしれないが、楽しいだけで何もせずに4年間を終えてしまうのではと言う不安が美夏の頭の中を漂っていた。
 以前の美夏なら、卒業して就職できさえすればいいので、遊んで過ごそうとしただろうが、今は違った。この国際関係学科で、おぼろげながら描いた夢の実現に向かって努力しなくては。そんな思いが美夏にはあった。
 結局、美夏はサークルには入らなかった。その代わりに授業には積極的に出席した。初めの授業では大きな講義室に学生がひしめいていたが、ゴールデンウィークを過ぎる頃から学生の数が激減した。出席する学生の中にも授業中に飲食をしたり、漫画を読んだり、メールを打つ者が現われ始めた。それを、注意する先生もいたが、黙認する先生もいた。
 美夏はよく授業に出席している数人の女子学生と仲良くなることができた。一緒に食事をし、休み時間に雑談して過ごした。やはり、美夏は聞き役に回ることが多かった。
 美夏は教養科目だけでなく、国際関係の専門科目も履修した。その専門科目は日本と他の国々との関係についてのものだった。その講義に熱心に出席した美夏だったが、講義の回数が進むにつれ、言い知れぬ違和感を覚えた。ここで学んでいることは自分の夢の実現に役に立つのだろうか。本当に学びたいことなのだろうか。おぼろげな夢だけにその疑問に答えが出ることはなかった。
 美夏がそうやって悩んでいる時に、時々あの男のことが頭に浮かんだ。昨年、美夏が交通事故で入院した時に会った男である。美夏は彼が退院した後のことは全く知らなかった。ただ知っているのは、彼の苗字と彼がどこかの予備校の数学講師であることだけだった。美夏は彼を思い出すたびに彼の消息が気になっていった。
 ある土曜日、美夏はアルバイトを休んで、彼を探しに予備校を回って歩くことにした。
第14話
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