傾きが負

〜known secrets and unknown common senses〜
第11話

 12月を迎え、寒さが身にしみるようになってきた。美夏は試験休みに入ってから、一日中、受験勉強に集中していたため、かなり疲労していた。
 ある時、美夏はなかなか進まない勉強が嫌になって、床に寝そべった。寝転びながら、美夏は思った。
〜受験生というのは何でこんなにつらい思いをしなくてはならないのだろう。大学生は遊んでいられるのに。こんなつらいことから逃げ出してしまえば楽になれるのになあ。〜
 そして、美夏は気分を変えるために近くにある市の図書館で勉強してみることにした。
 数十分程、図書館の机に向かっていた美夏だったが、やはり集中できなかった。仕方がないので、図書館にある雑誌を読んでみることにした。手に取った雑誌をぱらぱらとめくると、ある記事が目に止まった。それは、地域紛争に関する記事だった。美夏は、それを読んで衝撃を受けた。数十もの紛争が世界各地で起こっていて、そこでは、美夏より幼い少年達が兵士として戦っているというものだった。少年兵士は貧しさから進んで兵士となるが、大人の兵士から暴力を受けて、絶対服従を強いられ、人を殺すことで生きていく…
 美夏は、その少年達と、食べるに困らずに生きている日本の子供達との違いをまざまざと感じた。彼らは教育も受けずに、ただ生きるために、心を壊してまで戦っているのに、たかが受験勉強をこの上なく苦しいと思った自分はなんて贅沢なんだろうと。もし、自分がそんな状況に追い込まれたらと思うとぞっとした。
 それから、美夏は自宅に帰り、必死に勉強した。しかし、時々、あの少年兵士のことが頭をかすめた。数日が立って、美夏は彼らのために自分ができることがあるのではないかと思い始めた。そして、気がつくと大学ガイドをぱらぱらとめくっていた。
 これまで、美夏は大学に入ればそれでいいと思っていた。大学に進学するのも母が熱望しているからだった。大学に進学しなければ、就職するか、就職しやすい専門学校に通うつもりだった。大学に入った後はアルバイトに精を出して、家計を助けながら、サークルでも入って楽しく過ごそうと思っていた。これまで志望していた文学部も自分が入れそうだったからという理由で決めたものだった。
 美夏はこの世に生きている自分が、この世界にどんな貢献ができるのか、そのためには一体どんな職業に就くべきか、どの大学、どの学科に入るべきか、と受験を目前にしながら、必死で考えていた。
第12話
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