傾きが負

〜known secrets and unknown common senses〜
第10話

〜傾きが負なら、座標を回せ。〜
 美夏はノートに座標と傾きが負の直線を描き、座標だけを90度回したものも描いてみた。しかし、見た目には何も変わっていないように見えた。しばらく考えて、美夏はノートを回して、回った座標を正しい向きにしてみた。すると、直線の傾きが正になっていた。美夏はその時、はっとした。直線も見方によって違って見える。自分の未来が下り坂で落ちていく一方だと考えていたけど、視点を変えれば下り坂も上り坂になって未来に希望が持てるのではないか、そして、自分自身も変われるのではないか、美夏はそう考えた。
 しかし、視点を変えるといっても、美夏にはどう変えていいかわからなかった。
 しばらくして、弟が帰ってきた。弟は美夏を見てこう言った。
「お姉ちゃん。目が赤いよ。どうしたの?」
 美夏は弟に今日の人の手を借りて迷惑かけたことを話した。
「なんだ、そんなことで悩んでいるの。お姉ちゃんが頼んでいやいややってもらったんじゃなくて、進んで手を貸してくれたんだから、お姉ちゃんがお礼さえ言っておけば、手を貸してくれた人も良いことをしたって思うだけだよ。席を譲ったり手を貸したりするってなかなかできないから、さらっとできる人は尊敬しちゃうよ。」
 弟はそう言うと、いつものようにテレビゲームを始めた。美夏は、自分の思い込みで今まで悩んでいたことをばかばかしく思った。そして、再び机に向かった。
 次の日、高校に行くと、友人達が集まってきて美夏が携帯を解約したことについて話し出した。
「お金がないなら仕方ないね。」
「残念だけどメール送れないね。」
 友人達は美夏に軽蔑に似た同情の言葉をかけた。
「うん。でも、携帯がなくても生きていけるから。」
 美夏は思い切ってそう言った。
「そうよ。」
 里子も同調した。
 放課後になると、里子以外は一緒にカラオケに向かった。里子は毎日、美夏を送ってくれた。そして、美夏と里子は他の仲間から徐々に離れていった。逆に美夏と里子は一緒にいる時間が長くなっていった。
 ある時、里子は美夏に恋の悩みを相談した。今まで、里子が友人達の前でそんな悩みを打ち明けることを美夏は見たことがなかった。美夏は親身になって相談に乗った。そして、美夏も里子に今まで心の内にしまいこんでいた悩みを相談できるようになっていた。
 美夏はこれまで、仲間が減ったことは受験勉強に集中できるようにもなったし、自分にとって良かったんだと言い聞かせていたが、いつしか本当にそう思えるようになっていた。
第11話
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