peaceful

「私はただ、平凡でも経済的に困らない生活をしたいんです。どうしてもやりたいことなんてないんです。安定していて平穏な日々を送って趣味等を楽しみたいんです。」
 私は彼の言葉がとても遠く感じられた。彼は何かをあきらめてしまっているように思われた。
「人生一度きりなのに、それでいいのか。夢はないのか。」
 と私は問いかけた。
「そんなこと言っても…。もうここまで来ちゃったから。あなたにはあるんですか?」
「あるさ。そしてもちろん実現させるつもりだ。だけど、ここは違う。」
 自分の置かれた状況と心の内にあるものとの乖離は大きすぎるものだった。これまで、それを何とか正当化しようと試みたが、ふと立ち止まって、自分自信を客観視する度にその矛盾が決定的であることに気付くのであった。
「でも、ときどき平凡でも安定した生活もいいなと思うけどな。荒波を恐れて踏み出すことをためらってしまう弱さがそう思わせているのだろう。しかし、弱さに負けたら、自分に自信も持てないから、強く生きることに決めたんだよ。」

第26話
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