appearances

 功男は雨の中をうつむいて歩いていた。「人を見る目がないな。」功男はそうつぶやいた。人は中身がいかに重要であるかということをわかりながらも、それを見極めることができない、功男はそんな無力感に苛まれていた。一見、すばらしい人に見えても、知れば知るほどそんなものではなく、時には侮蔑に値するほどであるとわかったとき、結局うわべだけしか見ることができない自分の能力のなさに苛ちを覚えるのであった。
 電車の座席でそんなことを考えていると、一人の男が功男の隣に座った。髭は濃く強面の小太りの男であった。功男は一瞬びくっとしたが、気を鎮めて静かに座っていた。次の駅で5歳くらいの幼い男の子を連れた母親が乗ってきて、その男の前に立った。男の子は少しだだをこねているようでもあった。男は徐に腰を上げ、母親に「座りなよ。」と言った。母親はすまなそうに座席に腰を下ろし、男の子は母親の膝の上に座った。
 それから、功男はしばし目を閉じていた。考えるのではなく感じること、そんなことに思考を廻らせながら。
第25話
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