free from bondage
「これ、何かに使えませんかね。」
山本は新しい素材を高原に見せた。
「それは、どういうことだ。目的があって作ったんじゃないのか。」
高原が問いただすと、山本はこう答えた。
「色々作っている内にちょっと変わったものができたので何か使えないかなと思ったんですよ。別に目的があって作ったわけじゃないんです。でも、何か良い機能性があったらいいなと思ったんです。」
「たとえ、機能性があったとしても、現在、その機能において、主流となっているものに勝るものがなければ利用価値はないに等しい。価格、性能、環境調和性、デザイン等の全てで劣るものを選ぶユーザーはいないから、市場でシェアを取れるはずがない。
俺は目的志向だから、ある機能を目指すなら、今流通しているものにいくつかの点で勝るもの、自信を持って良いと言えるものを作りたい。既存品を上回る可能性がないのに可能性があるように見せて予算を取っておきながら、結局たいしたことなくて市場に出せないなんて詐欺みたいなもんだ。」
「でも、目的志向だからある機能に絞ったとして、我が社がこれまでやってきたものを改良しても、業界主流製品を上回る機能なんて出せそうにありませんよ。」
「やはり、しがらみに縛られているな。今あるもので、何ができるかを考えるから、何もできないんだ。それをするために何が必要かを考えてみろ。それで必然的にこれまでの枠をはみ出すならそれが正解だ。しがらみの中で一貫性を保つよりも目的に対して一貫性を保つべきだ。」
翌日、山本は高原に会うなりこう言った。
「枠から外れてもいいと考えると、選択肢はものすごくたくさんありますね。しがらみの向こうには可能性の海が広がっていますね。」
第24話
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