not unattainable

 どんなに頑張ってもこの先には欲しいものはないのだと知ったとき、私は一つの希望を失った。しかし、なぜだろうか、目の前のものを失ったからといって、絶望に陥ることはなかった。むしろ、ある種の解放のように感じられた。一つの夢ではあったが、それが全てではなかった。自分自身を束縛し続けながらも、密かに大きなものを望んでいた。不器用にしか自分の願望を表現することができなかった私にとって、真っ直ぐに求めることは不安であった。ただ、枠の外を見ると、そこには希望の海が広がっていた。
 そこには、既存の道しるべは存在しない。おぼれるかもしれないが、大きな島が見つかるかもしれない。ただ、わかっていることはどの方向に進路を取るのも自由であることだ。自由過ぎる程に、現実という波に心が揺さぶられるだろう。正しく生きるという信念しか持ち合わせていなかった私であったが、それだけで十分であるように思えた。
第19話
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