an echo

 私には彼に迷いはないように見えた。彼は熱心に仕事に取り組み、成果を出してきた。ときにその働きぶりが賞賛されることもあった。また、私は彼の能力がこの仕事にとどまらないことも知っていた。何をしても人並み以上で、そつなくこなす様子には常に余裕が感じられた。私は彼がうらやましかったが、何でもできる人はいるんだなとは思っていたが、彼に対抗意識を燃やすことはなかった。
 あるとき、私は彼にこう言った。。
「すごいよな。君の10年後が楽しみだよ。」
 彼は一寸口をつぐんだあと、口を開いた。
「10年後か…。何しているんだろうな。」
「だから、出世しているに決まっているんじゃないか。」
「出世か。そんなものはどうだっていいんだ。10年後か…。5年、いや、3年後も見えないな。」
 妙に真剣な彼の眼差しに私は一瞬凍りついた。
 彼が未来について語ることはほとんどなく、遠くても数ヵ月後までだった。私には彼が何を望んでいるのかがわからなかった。
「君は一体何をしたいんだい?」
 私が訊くと彼はしばらく沈黙した。そして、こう答えた。
「何もないわけではないんだ。しかし、不確定な未来は語れない。結果だけを見てくれ。悪いけど、それが答えだ。」
 私は突きたてられた壁に成す術がなかった。その壁に跳ね返った言葉が自分に戻ってくるばかりだった。そう、私は何をしたいのかと。
第18話
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