a bent bamboo

 美夏は久しぶりにあの竹林のある森を訪れることにした。それは暮れも押し迫った底冷えのする日であった。森へと続く並木道に以前と同じように人影はなく、何か寂しげだった。外から森を概観すると、未だ緑を保つ常緑樹もあったが、葉が落ちた木が多く、以前来たとき薄暗かったのが嘘のように明るかった。美夏は滑らないようにそっと落ち葉に覆われた坂を下っていった。途中で美夏の顔ほどの大きさもある落ち葉がたくさん散乱しているのを見た美夏は驚きながらも新たな発見を喜んだ。
 そして、美夏は大好きな竹林のある場所へ辿り着いた。そこには、他の区域と一線を画すように成熟した緑が広がっていた。竹を一本一本眺めていた美夏は竹が皆真っ直ぐ伸びているものばかりではなく、曲がって伸びているものもあることに気付いた。あるものは真っ直ぐ天へと伸びているが、あるものは反り返り、自身の重さで今にも倒れそうだった。さらに、半ばから折れて葉を逆さに枝垂れさせているものもあった。以前来たときからあったのかもしれないが、緑の美しさにばかり目がいっていたせいか気が付かなかったのかも知れない。もう、綺麗な部分だけ見ているわけには行かない。美夏は現実と言うものがそこにあるのだと感じていた。振り返ると、橙色の夕日が眩しいほどに照っていた。美夏の影はとても長く伸びていた。それを見た美夏は無性にはしゃぎたくなった。美夏は足取り軽く進みつづけた。開けたところに出るとそっと目を閉じた。小鳥のさえずりが響いていた。小動物が落ち葉をかき分けながら進む音が聞こえてきた。美夏は目を開けると、一歩一歩踏みしめるように森を後にした。
第16話
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