live for

 高原は茂にとって唯一心を許せる人物だった。就職祝いに高原の家へ夕食に呼ばれていた。食事を終えた茂は箸を置くと、真剣な面持ちでこう言った。
「人は何のために生きているのですか。それがわかれば、それに向かって真っ直ぐに生きていけるのに。それがわからないから、こんなにも迷って…。」
 そこは、やっと見つけた再就職先だった。しかし、必ずしも茂が心から望む仕事ではなかった。決断にはかなりの妥協を必要とした。その仕事を好きになり、生涯を捧げられるかどうかを考えると心配でならなかった。
 高原は茂をなだめるようにこう言った。
「それはわからなくていいんだよ。もし、ただ一つの目的を見つけてしまったら、それで終わりだ。それに対して真っ直ぐになればなるほど手段を選ばなくなる。そのために命を投げてしまうこともあるかもしれない。本当にそれで良いのかと冷静に考えてみたら、そうではないと気付くこともあるだろう。考える余地も与えられないほど真っ直ぐになるということは恐ろしいことだ。だから、色んな目的を見つければいい。そして、その目的も時の流れとともに変化していくだろう。だからと言って、恥じることはない。変わることは生きている証だから。」
「迷ってもいいのですね。」
 茂の口元には力強さが戻っていた。
第15話
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