a secrete decision

 彼は徐にソファーに腰を下ろすと、私に視線を投げた。私は彼の真剣な目に強いものを感じた。促されるように彼の正面の席に座ると、彼は低い声で語りだした。
「ようやく、将来を左右するだけの決断をするだけの勇気が持てる気がするんだ。」
「決断?」
「これまでも所々で進路を選ぶ決断をしてきた。その道を通ってきたから今があるのはわかっている。だけど、その道をこれからも進む必要があるわけではないし、昔の決断がこれからを決めるものではないんだ。ずいぶん遠回りをしてしまっていたけど、その時間も決して無駄ではないと思うんだ。結局は向かうところは同じだから。それだけは今も変わっていないんだ。止まらなければよく見えないことは知っていながらも、歩みを止めるのに慎重にならざるを得なかった。それなのに一気にはみ出してしまうんだから、この決断はかなり重いことなんだ。」
「重大な決断…。」
「重大な決断をするのは確かだけど、心のうちを知られたくないから、こっそりと準備をして実行に移す。結果が明るみになったとき、周囲の人は驚くだろう。しかし、本人にとっては必然的なことなんだ。だから、その驚く様子を楽しむ余裕すらあるだろう。」
「秘密主義者だな。」
「まあね。」
 彼の顔に一瞬、笑みが浮かんだ。私は彼の中には自信と不安が入り混じっているのだと感じていた。
第9話
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