silent coffee

 あの頃の私は、人の悩みに深く関わって真剣に取り組めば、どんな悩みであっても解決してあげられると思っていた。そして、その人の悩みも取り去ってあげられると信じていた。しかし、それは幻想でしかなかった。彼女は決してそれを表面に出そうとはしなかった。むしろ、私がそれを見ようとすることができなかったのかもしれない。彼女が一瞬浮かべる暗い表情に強い不安を感じられたが、私はだた、その場を明るく取り繕うことしかできなかった。私は一種の焦りを感じていたが、心の距離はそれ以上縮まることはなかった。それは次第に無力感へと変わっていった。そして、時は流れた。
 自分ですら幸せにできないのに人を幸せにすることはできるのか、そんな思いに苛まれ続けた。そして、自分を幸せにするために彼女の幸せを望んでいたことに気付いたのだった。心の悩みを解決するのも幸せになるのも本人次第で、他人はどんなに頑張ってもきっかけや手掛りを与えることができるに過ぎない。人生を決めるのも初めから終わりまでずっと一緒にいられるのも自分自身なのだから。
第8話
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