invisible cruelty
幹夫は多くの部下を抱えていた。彼らにやさしく接するように努めた。助けを求められれば、喜んで手を貸した。決して失敗や過ちを咎めることはなかった。彼らの中には幹夫を悪く言うものはいなかった。幹夫は自分が彼らから慕われていると言う自信を持っていた。
あるとき、一人の部下がやる気を失って来なくなった。幹夫は彼を心配している素振りをしたが、他の部下は気にする様子はなかった。何も変わらぬ日常がそこにあった。彼がいなくても何の不都合も生じなかった。幹夫の中でも本人の問題だからと自分を正当化することで全てが解決していた。ただ時間だけが過ぎていった。彼らの記憶から彼の存在が消えつつあった。実際、まもなく彼との関係も消滅すると思われた。
そんな時、彼は突然戻ってきた。彼は復帰してからは仕事に手を抜くこともなく、真面目に働いているようであった。他の部下ともそれなりに仲良くやっているようであった。しかし、彼が当然辞めるものだと思っていた。何で来たんだろう。幹夫にこんな思いがよぎった。当初は心配する素振りをしていた自分がいたことを思うと、幹夫は自らの残酷さを垣間見たが、それ以上は見ようとはしなかった。ただ、目の前の日常と向き合うのであった。
第7話
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