winter horizon

 彼は出会った瞬間に別れのときを想像すると言う。
「俺はいつも終わりを気にしている。死や別れというものは必ず訪れるものだ。それぞれのストーリーにどうやってきれいな最後をつけるかをいつも考えているんだ。だから、今このときはエンディングの演出のためにあるに過ぎないのさ。」
「なるほど、君は整然として華麗な終結のためには、必死になって終わらせまいとする努力は余計なことだと考えているんだね。いくら功績を残したとしても、死んでしまってはその栄光に酔いしれることもできないね。人生のエンディングは一度だけしか味合うことはできないね。他の出来事もそのときの一度だけしか体験できないが、記憶に残る限り、思い出せば何度でも味わうことができるんだよ。嬉しいことも楽しいことも、辛いことも悲しいことも。そこから、何か得るものがあるんじゃないかな。」
「本当の終わりが来ない限り、悲しい記憶がいつまでも続いていくだけだよ。生きていく限り、悲しい記憶が増えつづけていくんだ。」
「いや、悲しい記憶は目をそらし続ける限り、悲しいままだが、それに真っ直ぐ向き合えたときには自分の力になるんだよ。悲しみを乗り越えた人は強いと思わないか。君には強く生きて欲しいんだよ。そして、悲しみ以外の何かを見つけて欲しい。」
「強く生きる…、か。」
第5話
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