an evasive life
彼は常に自ら決めるということを避けてきた。選択権を他人に委ねてきたのだ。彼は選択を迫られたときは必ず、人に意見を求めた。そして、その意見の通りの選択をするのであった。
あるとき、勇気のある人は彼にこう言った。
「君が自分で決めようとしないのは、自分で決めて失敗したら誰にも文句を言うことができなくなってしまうからではないのか。」
「いや、僕は自分の判断に自信がないから、人の意見を参考にしようと…。」
小さな声で彼は答えた。
「他人は自分の価値観で物を言っているだけなのに、それを鵜呑みにするのか。君には価値観と言うものがないのか。」
「価値観…。考えたこともないです。」
「人生の大事な選択までも人任せにするのかい? 選択の正しさなんて終わって見なければわからないし、終わってもわからないかもしれない。今の自分が考え抜いて出した答えくらいには自信をもってみないか。」
「考える…。この頃、忘れていたことですね。」
「考えなくても生きていけるかもしれないが、考えればきっと違うものが見えてくるんだよ。」
その人が去った後、彼は一つ頷いて自分の掌をじっと眺めていた。
第4話
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