rainy bitterness
小雨の降りしきるある秋の夜、私は雨宿りを兼ねて喫茶店に入り、コーヒーを注文した。外を眺めながら、私は一向に降り止もうとしない雨に促されるように一つ長いため息を漏らした。そのとき、背後のテーブルで話している声が聞こえた。私は興味本位で少しの間耳を傾けた。
「その道に踏み出す勇気がなかったんだよね。あのとき君に手を貸したのはそこに踏みとどまっていることを正当化するための理由がほしかったのかもしれない。」
真剣な声色で男が話していた。私はその中の正当化という言葉が気になり再び耳を傾けた。
「それだから、無理に引き止めても本人のためにならないんじゃないかって、今は思う。だから、ああすることが正しかったのかどうか考えてしまうんだ。相手が君じゃなかったら、ああまでしなかったのかもしれない。そう思うと、自分は汚い人間なんだなって。」
カタッと陶器のぶつかる音が聞こえたが、気にならなかった。ただ、背後に意識を集中していた。
「素直すぎるから、知らないうちに簡単に人を傷つけてしまうのかな。それとも心が汚れてしまっているからなのかな。きっと、何かが欠けているんだろうな。それが、わかっているのに…」
私は目の前の冷め切ったコーヒーに手を伸ばして、口いっぱいに広がる苦味に感じ入った。そして、人は変われると何度もつぶやいた。
第2話
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