amplification

 一度遠のいてしまったものに再び近づくことは容易ではない。離れ離れになった人々は互いに意識しなくなってその名ですら忘れてしまうこともあるだろう。見失った目標は日々の積もりゆく時間によって埋もれていく。遠くにあるものには近づこうとしなければ永遠に巡り会わない。埋まってしまったものも掘り返さない限り眠りから醒めることはない。ある日、彼はこうつぶやいた。
「若い頃は夢があったなあ。今はこんなだけどなあ。」
「夢を夢のままで終わらせてしまったんだな。皆そうなのかもな。」
 私がこう言うと彼はこう続けた。
「忙しいから。きっとそのうち。と、何となく先送りしていたんだ。もっと真剣に考えて、努力してれば違ったかもな。」
 ほんの小さな違いが将来大きな違いを生むことはよくあることだ。時は肉体を変え、考えを変え、人を変える。時によって増幅するのは、悪ではなく善でありたい。それがまだ浅いところに埋まっているなら躊躇はいらない。
第32話
目次に戻る
PC版TOP
携帯版Menu