a flat road
彼は将来に強い不安を覚えているようだった。そして、定職を求めていた。
「ここなら、給料もいいし仕事も単純だし、老後も安心だな。ここで、ずっと働こうかな。」
会社のデータを見ながら彼はそうつぶやいた。
「そんなに遠いことまで今決められると言うのかい。」
私が問い掛けると、彼は表情を厳しくしてこう言った。
「今頑張って、安定した未来を確実にしたいんだ。貧乏は真っ平だよ。お金に苦労しない生活を送りたいんだ。」
彼は貧しい家の出身だった。彼は働く母の背中を見て育ってきたのだろう。私は彼が何かを見落としている気がしてならなかった。
「波のない人生なんてありえないよ。今だけ頑張れば後は何もしなくていいなんて思わない方がいい。枠から出ることが逃げ出すことか進み出すことか良く考えてみなよ。本当の道を選ぶのなら応援するが、ただ不安から逃げるためだとしたら、応援できないな。」
私がこう言うと、彼はうつむいてしばらく黙った。そして、こうつぶやいた。
「逃げると言われればそうかもしれないが。現状を見たらわかるだろ。」
「確かに、俺達はこんな現状を求めてはいない。これを変えるには途方もない力が要るだろう。俺も何でこんなことを続けているかがわからないよ。ここを変えることは目的ではないのだが、少しでも変えられたら、何かを見つけることができるかもしれないと思うんだ。進むべき道を選び取れるまでは努力したい。」
「無駄なことをするのが好きなんだな。それがずっと無駄でありつづけるかどうかは知らないけどな。」
第22話
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